子宮内膜症ってどんな病気なの?

子宮の内側には子宮内膜という組織が存在しています。子宮内膜症とは、この子宮内膜や、それに似た組織が卵巣や腹膜など、本来あるべき子宮内膜以外の場所にできる病気です。生理のたびに内膜組織が増殖を繰り返します。
子宮内膜以外の場所で形成されることで、行き場がなくなったこれらの組織は体内で炎症や出血、癒着、痛みの原因になります。
代表的な症状は痛みと不妊

代表的な症状は痛みと不妊です。痛みの中でも月経痛は子宮内膜症の患者さんの約90%にみられる症状です。この他、月経時以外に腰痛や下腹痛、排便痛、性交痛などがみられるようになります。
このような症状は20~30歳代の女性に多く発症し、加齢による女性ホルモン分泌の減少を境におさまります。また、約40%に不妊がみられます。妊娠を希望する生殖年齢の女性間では放っておけない数字です。
子宮内膜症と不妊の関係
子宮内膜症患者の約40%が不妊であると報告もあり、子宮内膜症と不妊は大きく関係していると言えます。
子宮内膜症の病状が進むことで、卵管と卵巣、子宮、腸管などが癒着を起こしやすくなり、卵管機能を物理的に阻害したり、子宮内膜症がある事自体が卵巣機能を低下させたりします。そうなることで妊娠しにくくなってしまうのです。
もちろん、子宮内膜症があるからと言って必ず不妊になるというわけではありません。子宮内膜症があっても妊娠できる人は大勢いますが、進行すると不妊だけでなく慢性的な痛みや、卵巣癌のリスクにもなってしまうため、婦人科での検診や治療をお勧めします。
初期症状は重くなる月経痛

子宮内膜症の初期症状は月経痛ですが、生理を繰り返すごとに痛みが増していく特徴があり、さらには月経時以外でも下腹部痛や腰痛、性交痛や排便痛といった症状も感じられるようになります。
月経痛が増してきたと思ったら早期発見のポイントです。一度、婦人科での検診をお勧めします。
子宮内膜症の原因は?
経血が卵管を通って腹腔内に逆流することが深く関係していると考えられています。これは生理現象で90%の女性にみられる症状です。経血量が多い人や月経回数が多い人はより子宮内膜症になりやすいのです。
単なる月経痛かと思いきや、子宮内膜症と診断されて驚かれる患者様も数多くいらっしゃいます。
こんなに増えた?子宮内膜症の患者数
現在、月経困難症の方が約1,000万人と推測されています。この数字は働く女性の1/3に当たると言われますが、治療を受けているのはわずか10%の100万人です。月経困難症のうち、子宮内膜症は300〜400万人いると言われています。
※総務省統計局人口統計より
平成に入ってから子宮内膜症の患者数が増加傾向にあります。女性の社会進出や、ライフスタイルの変化が関係していると考えられています。社会進出により結婚の年齢が引き上げられ、「晩婚化」と「晩産化」が進み、月経の回数が増加することで子宮内膜症の患者数が増えているといった背景です。
子宮内膜症の診断の流れ
子宮内膜症の診断は、一般的に、問診・内診・血液検査・画像診断(超音波検査・MRI)・腹腔鏡による診断がありますが、当院では、問診・内診(性交経験のある方のみ)・血液検査(必要に応じて)・超音波検査(性交経験のある方は経腟超音波検査、性交経験のない方は経腹超音波検査または経直腸超音波検査)で診察を行います。
しかし超音波検査などの画像検査で子宮や卵巣に異常を認めなくても、月経困難症や性交痛、排便痛などの臨床症状から子宮内膜症が強く疑われる事があります。
その場合、画像検査で子宮内膜症と診断する事ができなくても、症状に合わせて月経困難症としての治療をご提案させて頂きます。

子宮内膜症の治療が必要な場合
子宮内膜症と診断された場合、また画像検査で子宮内膜症と診断されなくても臨床症状がある場合は治療が必要になります。
治療が必要な場合は、患者様のライフスタイルやご希望に応じて薬による治療と手術による治療の2種の治療法をご提案させていただきます。

薬による治療
対症療法
NSAIDsをはじめとする鎮痛薬や漢方薬など月経痛や骨盤痛の症状を抑えます。
ホルモン療法
低用量ピル/超低用量ピル
エストロゲンとプロゲステロンを配合した排卵を抑えるホルモン剤です。症状の改善に効果があり、子宮内膜症の悪化や発症リスクを低下させます。
ミレーナ®(子宮内黄体ホルモン放出システム)
現在130カ国以上で約2,000万人の女性が使用している黄体ホルモンが付加された、新しいタイプの子宮内避妊リングです。この黄体ホルモンが子宮内膜を薄くすることで子宮からの出血を抑制し、子宮筋腫や子宮内膜症の治療や予防に非常に高い効果が期待できます。子宮内膜への局所作用なので、ピルが血栓リスクのために服用できない方も、安全に使用する事が可能です。
経口プロゲスチン製剤(ジエノゲスト®など)
黄体ホルモン(プロゲステロン)のみの製剤です。ピルが血栓リスクのために服用できない方も、安全に服用することが可能です。
GnRHアゴニスト
1ヶ月に1回の注射剤です。一般的に投与2ヶ月目から効果が出る事が多いです。
月経が開始してから医療機関に受診して注射をする必要があるので、月経時期に合わせて受診が必要です。1回目の注射をした後は出血に関係なく、おおむね4週ごとの注射になりますが、毎月の注射のために通院の必要があります。しかしその代わり毎日服用をしなくて済むので内服が苦手な方には向いています。
ただ、注射で1〜2ヶ月効果の持続する薬なので、副作用のために中止をしても副作用がすぐに改善されにくいデメリットがあります。
副作用に関しては漢方などの対処療法が可能です。
GnRHアンタゴニスト
GnRHアゴニストが投与約2ヶ月目から効果が出るのに対し、投与して数日で効果が出る事が多いのが特徴です。
GnRHアンタゴニストは内服薬なので、一度婦人科で処方をしたら、月経開始のときに患者様のタイミングで服用する事ができます。また、3ヶ月分まで処方できるので通院が少なく済みます。副作用も比較的アゴニストより少なく、副作用があっても中止した後にすぐに改善されやすいなどのメリットがありますが、毎日服用する必要があるというデメリットがあります。
副作用に関してはGnRHアゴニストと同様、漢方などの対処療法が可能です。
1ヶ月あたり料金比較(保険3割負担の場合)
[当院取扱いのもの]
※2022年11月時点の薬価
GnRHアゴニスト | リュープリン®注射用キット1.88mg | 先発品 | 月6,400円程度 |
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リュープロレリン酢酸塩注射用キット1.88mg | 後発品 | 月4,700円程度 | |
GnRHアンタゴニスト | レルミナ®錠40mg | 先発品のみ | 月8,000円程度 |
手術による治療
子宮内膜症の病巣が大きいときや、ホルモン治療で改善しない場合は手術をする事があります。
将来妊娠を希望する場合
腹腔鏡下子宮内膜症病巣摘出術
腹部に小さな穴を数ヶ所開け、腹腔内に炭酸ガスを流し込みます。一つの穴からは内視鏡を挿入し、中の様子をモニター画面で確認しながら、別の穴から挿入した器具で子宮内膜症のある病巣のみを摘出します。
手術をしても再発するリスクが高いため、すぐに妊娠を希望しない場合は、妊娠を希望するまで、もしくは閉経まで、術後のホルモン治療が必要になります。
腹腔鏡手術は回復までの時間や入院期間が開腹手術よりも短い手術法です。傷が小さく、比較的術後の痛みも少ないのが特徴です。
妊娠を希望しない場合、閉経後の方の場合
子宮全摘術、両側付属器(卵巣と卵管)摘出術
子宮、卵巣と卵管を全て摘出します。子宮内膜症だけでなく様々な月経時のお悩みが改善されます。
卵巣と卵管を摘出するかどうかに関しては、年齢や子宮内膜症の重症度によっても異なりますので、手術をする医療機関でご相談ください。
※その方の挙児希望や年齢などによって、手術方法は大きくかわります。また手術が必要な際には手術のできる高次医療機関に紹介をさせて頂きます。
GYNメディカルグループでは、これらの治療法の中から患者様のライフスタイルやご希望に応じて、選択させていただきます。少しでもお腹に違和感を感じたら当グループへご相談ください。
※手術適応のケースの場合は、対応可能な高次医療機関をご紹介させていただきます。
子宮内膜症の予防法
月経のある間は治療しても再発する症例が多く、月経があるご年齢の間は治療を続ける必要があります。素敵なライフスタイルの維持のために定期的な診察、そして症状がある場合や妊娠を希望していない間は治療を受けていただくよう推奨しております。
検診の際に子宮内膜症だけでなく、その他の病気を発見できるケースもあります。当グループでは、今すぐ妊娠希望のない方には、低用量ピルや超低用量ピル、黄体ホルモン剤の内服薬(ジエノゲスト®やその他経口プロゲスチン製剤)、ミレーナ®(子宮内黄体ホルモン放出システム)によるコントロールをご提案しています。
子宮内膜症のよくある質問
自覚症状でもっとも頻度が高いと言われている症状が月経痛です。子宮内膜症の進行が進むと、腰痛や性交痛、排便痛なども症状として現れてきます。以前に比べて月経がつらくなってきたと感じる方は早めの検診をお勧めします。早期発見、早期治療が病気の症状や進行を抑制します。
子宮内膜症は治療をしても、治療をやめてしまうと再発するため、閉経まで長く付き合っていくことが前提にあります。定期検診と必要な治療を欠かさずに行うことが大切です。
症状の1つとして挙げられますが、必ず不妊になるわけではありません。自然に妊娠・出産する方も多数いらっしゃいます。しかし、症状が進むと不妊症の原因になるため、早期からの治療が重要です。
子宮内膜症は卵巣癌のリスクになる事が知られています。子宮内膜症と診断された方は、超音波検査などの定期的な検診を必ずうけるようにしましょう。
医療機関によりますが、一般的に術後3〜4日ほどで退院可能となる事が多いです。手術痕も5〜15mmのものが3〜4箇所なので回復が早く、目立ちにくいです。